ラッフルズ、オリエンタルなど歴史に名前を残すクラシック・ホテルへの旅は、京都の老舗旅館と同様、そこで過ごした自分の時間が、そのまま歴史の一部になったような、時間や場所との一体感を味わえる。ふと、歴史を飾ったVIPたちが自分に降臨して、今この紅茶を飲みながら窓の外の景色を描写したのは、私自身じゃない、他の誰かなんじゃないか・・・と、きわどいトリップをする。
文豪や著名人の名前を冠したスイートを幾多も持つ、シンガポールのラッフルズ・ホテルや、タイのオリエンタル・バンコクなど、海外のクラシック・ホテルも本当に好い時間を与えてくれた。このテラスで揺れる椰子の葉陰を見上げながら、ネルーダはどんな詩を心に描いただろう。このテラスで、この川の流れを見ながら、モームは何を思い、どんな小説を組み立てだろう・・・。それらは勝手な連想ゲームで、単なるイマジネーションでしかないのだけれど、そんな心の旅の糸口を、そこら中に散りばめて、匂わせているのがクラシック・ホテルのよいところで、建物や内装や名物カクテルにも優る、本当のご馳走だと思っている・・・。 国内にも、奈良ホテルや軽井沢の万平ホテルなど、どこか陰鬱な郷愁さえ湛えた、想像力を掻きたててくれるクラシック・ホテルがある。今回は、そんな中でも特に敬愛すべき、箱根富士屋ホテルに、一泊する機会をようやく得た。 東名高速の入り口はすぐそこ。私にとって馴染み深い箱根だが、意外なことに、賢一は箱根自体が初めてなのだと言う・・・。 (新婚旅行で、私が「初めてのカリブ海!」と湧きたっていた時、賢一は『初めての海外旅行!!』と成田からド緊張していたのを思い出して懐かしくなった。^ー^;) 愛車ぼっぼで快適ドライブ。紅葉シーズンのピークは1ヶ月前のはずだが、山道にはまだ紅さが残っている。霧と小雨にけぶる中、駅伝の練習らしきランナーと、「中央大学」の横断幕がかかっていた。来年こそは、母校中大に久しぶりに優勝しちゃったりして欲しい!と、濡れそぼつランナーに、窓を開けて眼差しを送った。 ホテルに直行し、すぐにチェック・イン。(非常に時間がかかる)広いロビーラウンジで、革のソファで雑誌を読みながら気長に待つ。私はまだ体調不良の余韻たっぷり・・・、とてもアクティブになれない。箱根は保養地でもあるから、無理してでも来る価値があるはず。 休みにあわせてやっとのことで取れた予約、部屋は新館の5階(最上階)だった。(残念!憧れの花御殿は「お預け」)広々したデラックス・ツインは、昭和のシンプル・モダンに、最近のバリアフリー改修を施したと思われるつくり。昭和の機能美って、流行の北欧系インテリアに通じると思った。「わぁっ!(^o^)」というインパクトは無いけど、邪魔臭い所がなくて、じわじわいい感じ。 浴槽は木製で、もちろん全室に温泉を引いている。ベッドはダブル・マットレスだし、照明は充分で調光も自在。館内案内の他に、「富士屋ホテル小史」という細かい文字がびっしり詰ったパンフレットが置いてあった。創設時(明治)から今日までの、オーナーたちの不屈の精神の物語で、かなり読みごたえあり・・・。特に、ホテルを作るということが、道路を作ることであって、発電施設を作ることであったという創設当初の「ないないづくし」や、大火、震災、大戦後の接収といった幾多の「廃業機会」を乗り越えてきた執念、そしてそれを強く望んで励ましたという、世界中の富士屋ファンの話・・・創立者山口氏は大自然の山中に、「リゾートホテル」と言う名の「箱根より高いプライド」を築き上げたのだと理解できました。 ここでも「あかり」のおもてなし。 4時からは名物の「館内ツアー」です。40分のアトラクションをリードするのはベテラン・コンシェルジュの鈴木氏。まるで全ての歴史を見ていたかのような澱みない語り口に、「生き字引」という文字が重なりました。鈴木同士だから一緒に写真撮ってもらっちゃった。 5時過ぎからは、ロビーラウンジのソファでマジックを見せてくれる。ゴルゴ斎藤というマジシャンが、目の前でシルク、ステッキ、ロープ、カード、バルーンに予言を用いたマジックを見せてくれた。さほど上手くないけれど、予言の種は解らなかった。(ドラマ「TRICK」が大好きの賢一も???だったみたいで、「まるッとスルっとお見通しだ!」とは言えなかったね^^;) こうして夕食までの時間がゆるゆる流れていった。
by soukou-suzuki
| 2006-12-17 05:12
| かわいい妻には旅をさせろ
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