夜の香気。

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以前いただいた百合の花を真夜中に撮った写真があった。

見ただけで香りを感じる。
息遣いまで聞こえそうなほどに、夜に百合は香気を吐く。

眠っている私の枕元まで、鋭い香気が忍び寄ってきていること、真夜中に気づいた。

近づいて灯りをつけてみると、暗闇からはねあがるように明るみに出てきた百合の花が、長い口角を上げてニタリと笑っていた。いま私に笑いかけたというより、暗闇ですでに一人で笑っていた感じ。

真夜中にみると、百合は少し怖い。

思い出の一人旅のホテルのロビーや廊下で出会った百合の花も、同じように笑っていたのを思い出す。


ラッフルズ。
パリのリッツ。
香港のペニンシュラ。
オリエンタルバンコクのオーサーズラウンジ。
ウィーンのインペリアル。台湾のラ・ルー。

頭の芯に痛みを伴う強い香気と、薄暗がりが溶け合って、粘りけのある闇を方々に澱ませている共通の記憶。

百合は海馬に痛みの信号を送り、何かを思い出せ、思い出せと思考をなぶる。

カサブランカ。
白いブーケ。
ブートニア。


見送りの花。
枕花。
献花。

匂いで頭に痛いのか、記憶が痛いのか。
by soukou-suzuki | 2011-11-07 22:47 | Hikari NOW!
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