鶏頭と竜胆

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字にすると凄味があるけれど、見た目はこんなに愛らしい。
人もそうだけど、そのものの名前が、目には見えない本質を語ることがある。それとも、人は花を見ると、美しく儚いものと、とらえたがる生き物なのか…。違和感ともいえる意外性や二面性に出逢うとドキリとして思考が立ち止まる。


鶏頭と竜胆。
(ケイトウとリンドウ、と読む)

ケイトウは文字通り、見たとおり、鶏の鶏冠(とさか)に似ていることから。竜胆は、赤褐色の根を生薬『竜胆(りゅうたん)』とし、煎じて胃薬とすることから。
ケイトウはヒユ科で一年草。熱帯アジア原産。秋の季語。
リンドウはリンドウ科で多年草。やはり秋の季語。枕草子には、他の花がみな霜枯れする中に、ひときわ華やかな色合いで…と、『いとおかし』ものの一つとなっている。原種の藍色を指しているのでしょう。別名、「韓藍(からあい)」とも。和もの美的協会の古くからの会員さんというわけ。

いつもおまけしてくれる花屋さん。白い花を買いにいき、「おまけ」に赤い花を一輪、いただく。絶妙に素敵で『美味しい』おまけ。

紅一点。

おまけなのに、たちまち『主人公』顔のケイトウ。背筋を伸ばし、WEDGWOODをまとっている。


鶏頭花(けいとうか)撫でられてをり撫でてをり ひかり

やわらかそうに密生した真っ赤な毛が、周囲の空気に細かく刺さり込み、花自身と部屋の空気を馴染ませ一体化している。

鮮血の赤。今、我が家の真ん中に在る小さな情熱。
やがて焔(ほむら。火群、から)となるには、情を燃やす対象が要るでしょう。
気高く個性的な魔性の花。白リンドウの清廉さに囲まれていると、ただ愛らしいばかりに見えるのに。火ははからずも人の注意を引く。

外は秋の冷たい雨が激しく降っている。神社の虫の音が、参拝の神鈴を振り鳴らすように輪唱する。
雨、鈴、花、マグカップ。パーフェクトなカフェにたゆたっている。私の一壺天にも、陰陽五行が在って働く。

ずっとずっと、ずーっと以前にも、こうして鶏頭の花と会話した時代があったような気がするデジャヴな日曜の夜。たぶんパリ?

過去の恋人を懐かしむように、前世まで記憶を辿ろうとする時間。
冷めかけた珈琲をレンジに入れて温めて忘れ、思い出して取り出す。
こくり。こくり。こくり…。私と、同じくらいぬるい。
何か食べなくちゃ。食事をどうするか考え始めて、また忘れる。レンジの中の珈琲みたいに、温まったり冷めたりを繰り返している自分。

窓から滑り込む外気が、雨の冷たさをアピールしている。肌寒い。
でも不思議なこと……。あんなにたくさんある外の闇は、窓から入ってこれないでいる。魔除の白に守られている。
部屋がいとおしい。
by soukou-suzuki | 2009-08-30 19:37 | Hikari NOW!
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