ディープ in 京都 その4

「今に感謝して、今日を生きる」新たな師匠との出逢い。
ディープ in 京都 その4_c0049825_253296.jpg時間を買うために飛び乗ったタクシーの運転手さんはその名も「百合林菊子さん」。なんともうっとりするそのお名前に、ご機嫌な私達は陽気に話し掛ける。世間話ができそうな予感。しかし気さくな菊子お母さんは、やがて私達の予想をはるかに越えた話をしてくれた。



「百合林家は血ぃを引いているもんで、男はみなヒトがつくんですわ」
皇族の血と言いはしない、その婉曲な表現は逸品。「これぞ京都!」の空気を感じ、姿勢を正しました。
「私はもう曾孫がおるんです」
これには驚いた!孫はいると思ったけど、曾孫とは!だってお母さん、物凄く若く見えていたから・・・。それを言うと、
「私は大きな手術を2度したけど、治ってはいないんですね。人間は人生が長くないと解って初めて、一日一日を大切に生きることができるんですねぇ」
とこともなげに続ける。タクシーの窓から差し込む陽光が私の瞼に染みる・・・。今日を大切にしよう!心に誓った。
「家にいたって苦しいの痛いの・・・、仕事はできる限り続けます。自分のためですわ」
うんうん、お母さん、偉い!朝から涙腺がやけに緩む。
「他にもボランティアでね、老人施設に髪を切りにいくんですよ。前はプロが来てたけど、僅かな料金だからと、どうでもいいカットをしててね。私はアマだから奉仕ですけど、相手が気に入るように、素敵になるように切らなくちゃ意味がないと思うんです。それで、めいっぱいモダンに切ってワックスでスタイルを作ったら、終わってからその方が、口紅して部屋から出てこられたのを見てこっちが嬉しくなった」
あたかも目の前に、口紅を塗った老婦人が見えるようだ。ほんのり紅潮した頬で微笑む顔が浮かぶ。三十三間堂までの僅か10分で、目から鱗がパラパラ落ちた朝。人との出逢い、言葉との出逢い、そこから得られる生甲斐との出逢い・・・。京都でまた一人、師匠に出逢った朝だった。京都のタクシーは安い。お金で買えない価値がある。
ディープ in 京都 その4_c0049825_2534041.jpgディープ in 京都 その4_c0049825_254767.jpg
by soukou-suzuki | 2006-10-08 03:00 | かわいい妻には旅をさせろ
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