ディープ in 京都 その2

会員制 バー 元禄
ディープ in 京都 その2_c0049825_0385798.jpg京都と言えば「一見さんお断り」。贔屓の客を大事にするために生み出され、目の前の客欲しさに顧客をないがしろにする行為を自ら厳しく戒めるものだと言うが、客の本音で言えば、店の方が客を選ぶ「高ぴしゃな商売」でもある。循環型共生システムの草分けでもあり、多面的で高度に大人なシステムである。新規開拓のスピードを抑える代わりに、移ろい易い消費者を長くとどめる効果もある。客は馴染むのに時間がかかった分、日々居心地が良くなっていく。
何でもサイクルを永く永く持っていくのは京都らしい価値観だ。せっせと新陳代謝しているうちに、気付いたら自分が別の生き物になってしまった!なんていう摩訶不思議な力を持った東京と言う街とは根本的に価値観が違う。東京育ちの私は特に、京都の思想から学ぶものは多い筈。
ディープ in 京都 その2_c0049825_0444899.jpg・・・で、初めてその機会を得た今回。店の表には「会員制」と書いた小さな小さな札だけが掛かっている。ドアの向うにカーテンが掛かり、ドアを開けただけでは店の中は見えない。
普段入れないと聞くと入りたくなるのが人間。逆に、縛られ出すと新しい店に行きたくなる。そして他所で相容れないものを感じると、故郷を懐かしむように変わらぬ店へ戻ってくる。店も突き放したり、迎え入れたり・・・恋愛とも親子ともつかぬ駆け引きとしがらみ。そこで自然と身に付く人付き合いのノウハウは、同時に自分の価値を何処に据えるかという、プライドとポリシーを問われることでもある。

ディープ in 京都 その2_c0049825_0423791.jpg元禄は明治創業の老舗バー。太平洋戦争を経てアメリカ軍に接収され、後に復活。当代で3代目の中川礼子ママは細身の静かな人。私たち3人にそれぞれに似合うカクテルを見立ててくれ、F江さんには夜明けをイメージした「街」を、私にはリキュールがほんのり甘くてミントの葉がすっきりしたドイツの紅茶のお酒を、クラシック好きのY子さんには、彼女を見抜いたように、「モーツアルト」と言うカクテルだった。
2代目ママ量子さんは私たちのテーブルにつき、師匠の貫禄そのもので、このバーの歴史と逸話を語ってくれた。その語り口に、初代の娘さんだとばかり思っていたら、2代目のお嫁さんなんだと後で判明。娘でも嫁でも、京都の店は女が守るのだと感じた。いつの間に「お母さん」と呼んでいたが、時折、「先生」と言い間違ってしまうのは量子ママの迫力ゆえ。
「バーに来るときは酔いたんぼ(酔っ払い)はあかん。いい男を連れてきなさい」
「女同士で騒がしく喋ってもあかん、喫茶店になってしまう」
「あんたさん、誰のお陰でここに来た?連れてきてくれた人に感謝して飲まなあかん」
・・・


ディープ in 京都 その2_c0049825_0464655.jpgいつかまた会いに来ます。それまでお母さん、どうぞお元気で。
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by soukou-suzuki | 2006-10-07 00:43 | THE 暖簾(のれん)!
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