女のOFF ―VOL.4

―「待つ」という贅沢な時間―
案内人とお別れし、いざ老舗旅館の御三家の一つ俵屋さんへ。市役所駅から地下道を歩き、姉小路の目の前で恐る恐る(方向音痴ゆえ)地上へ出ると、すぐそこには柊屋さんが見え、振り返れば向い側が俵屋さんでした。ほ。
小さな玄関から走りよる男衆に荷物を渡すと、ボストンの重さとともに旅の緊張がふんわりと手を離れて行きました。私もすっかりもてなされ上手。
温かく「おいでやす」と言われれば、初対面でも「ただいま!」と飛び付きたくなる。
羽毛のスリッパで急な階段を泳ぐようにはい上がり、「私の」孔雀の間へ。部屋は広く暖かく、お着き菓子の「蕨餅」が青竹を切った器で出される。ひんやりと口中に広がる蕨餅が、先ほどまでの外気の冷たさを思い出させる。

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雪見障子に寄って、すぐ目の前へ掲げられた楓の葉に触れようと、そっと二重硝子を引く。坪庭を囲むように各部屋の窓が見えるが、部屋の中は楓の葉が上手に隠している。紅葉簾(←勝手に命名)に隔てられたお向いの部屋には、どんな幸せ者が現世を謳歌しているのだろう・・・。
孔雀の間は、10畳に6畳の次の間つき。床の間には「薫炉香」、違い棚には尽きた香。手梳き和紙の便箋と封筒が、誰に文をしたためるべきか指図している。部屋に筆がないので借りに行こう。
連れの到着まで二時間以上ある。ああこの贅沢な空間に身を置いて、何をして待とうかと悩むのも至福かな。
  ↓窓から坪庭を見下ろす
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玄関に降りると、紫野(大徳寺)の大亀老師の「歳月不待人(歳月人を待たず)」が書かれた警策が飾られていた。水仙が活けられ、12月の設えだ。時間は待ってくれないけれど、それを嘆く気にはなれない。
「だって老師さま、今日に限っては、”今”と言う”この時”を、私の方が心待ちにしていたのですもの!」
床暖房の効いた静かな図書館で、古い蔵書を捲っていると、過去に泊まった名ホテルのライブラリーとシンクロして、自分が何処にいるのか解らなくなる。
和綴じの拾遺和歌集を捲り、古紙の匂いと手触りと、ふわりと軽い優しさを味わう。
新しい名宿との出会いは、過去の佳き日との再会でもある。

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by soukou-suzuki | 2005-12-08 01:01 | かわいい妻には旅をさせろ
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